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ぎっくり腰の鍼灸治療


ぎっくり腰の症状とは

ぎっくり腰とは、レントゲンやMRI検査をしても異常が無く、急に腰が痛み動けなくなるものの総称です。検査をしても異常がみつからない、ではどこに異常があるのかという話ですが、腰周辺の筋肉ということになりますその中でも一番多いのが大腰筋の痙攣です。大腰筋は腰椎の両サイドから足の付根の大腿骨小転子に付着しますが、文字通り大きな腰の筋肉なので大きい分、痙攣したときの痛みも激しいです。また体の深い所に位置するために大腰筋単独で痙攣している場合は、腰の痛む箇所を押しても大腰筋にまで力が伝わず、浅層の脊柱起立筋に力が加わるだけなのでほとんど痛みません。

そして横隔膜の近くに位置するために咳やくしゃみで腰に響くような感覚があって姿勢は前屈みになってしまい腰が真っ直ぐ伸びません。時間帯別でいうと朝に発症することが多いです。

横になる時は身体を丸くしてじっとしているとまだましですが、寝返りをうつのも一苦労で、ひどい場合はトイレへ這って行くこともあります。

勿論、ぎっくり腰が大腰筋の痙攣以外だけではなく脊柱起立筋や中小殿筋が悪いこともあります。大腰筋の痙攣とは反対に、脊柱起立筋の痙攣の場合は地面のものを拾うような前屈姿勢ができませんので、背中をまっすぐにしてきをつけの格好になります。また中小殿筋が痙攣すると痙攣している側に重心をかけると痛みますので、反対側に重心をかけるので、きゅうりやバナナのように横に曲がった姿勢になります。

 
 
 
 

ぎっくり腰の原因とは

ぎっくり腰の原因となるのはどのようなものでしょうか。普段より立ったり屈んだりやおじぎの動作、または坂や階段を登る動作や中腰等の腰に負担のかかる姿勢が普段より多ければなりやすいです。筋肉は普段使っているだけの運動量しかこなせません。それ以上のことをすれば筋肉へ普段の運動量以上の酸素と栄養が行き渡らないために痙攣を起こします。
さらに、冷えても血管が収縮して酸素と栄養を運ぶ血流が不足して痙攣を起こす1つの要因となります。

筋肉の痙攣で一番馴染み深いのは、ふくらはぎの筋肉が痙攣、俗に言うこむら返りです。睡眠中や激しい運動をしていて経験された事があるのではないでしょうか。こむら返りを起こすと激痛でつま先がむりやり下を向い(底屈)てしまいます。ふくらはぎにある腓腹筋という筋肉はつま先を下に向ける作用がありますが、痙攣すると筋肉が収縮しっぱなしになるために、先述の通り痛みでつま先が下を向くような肢位になります。

これが大腰筋で起こっていると思えばイメージがつきやすいです。ただ大腰筋とふくらはぎの腓腹筋では大きさが全く違うので、ぎっくり腰の痛みは
こむら返りより更に強烈なものになり、腰が前に曲がってしまってしゃんと姿勢を真っ直ぐに正すことができませんし、重度の場合は微動だにできなくなります。

余談ですが、こむら返りの大半も大腰筋の緊張が原因となります。ふくらはぎを栄養する血管が大腰筋を通っており、大腰筋の緊張でふくらはぎが血流不足になるからです。

話が少しそれましたが、深夜から朝方は心臓の拍動がゆっくりになり筋肉への血流が減少しているので起床時はギックリ腰を起こしやすい時間帯になります。従って重い物を持たなくても、少し動いただけでぎっくり腰になることが多々あります。

過去にぎっくり腰の経験があると繰り返す事が多いです。癖のようになって何回か繰り返している人なら、そろそろぎっくり腰になりそうという気配がわかるといいます。

ではなぜ、ぎっくり腰はクセになると言われているのか。それはぎっくり腰を起こしたときにどんな治療を受けたかがポイントになります。ちゃんと痙攣をおこしている筋肉の緊張が、それでとれているかどうかです。鍼ならばそこまで鍼先が達してないと効果的な治療となりえません。湿布や電気治療、マッサージも深部の筋肉までは作用していません。でも時間がたてば治るのは安静にしていて症状が治まっているからですね。症状が治まると完治したと思いますが、結局その時期から腰痛持ちになり疲労が腰にたまりやすくなります。そしてそれが蓄積するとぎっくり腰になってしまい、それが繰り返されて癖になるわけです。

大腰筋の治療をするためには6~9センチの鍼を用います。大腰筋は筋肉を何層か入った深部にありますからこれくらいの長さが必要なのです。逆に言えば、先述の通り手技や電気治療や湿布等他の治療でこの深さの筋肉まで作用させることができるかというと、かなり厳しいかと思います。

ちなみに大腰筋の緊張を放置しておくと、足を支配する神経を圧迫して神経痛を起こしたり、ほかにも腰椎のすべり症や分離症、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症の原因になりますので緊張を早期に解消するのが先決です。

 
 
 
 

大腰筋が痙攣している場合、腰を真っ直ぐ伸ばせません。

 

ぎっくり腰と尿管結石と腰椎圧迫骨折との鑑別

治療をする前にギックリ腰かどうか見極めなければなりません。ぎっくり腰の症状が似ているのが尿路結石と腰椎の圧迫骨折です

どれも腰が痛むのですが、尿管結石は立った状態で左手の手根を腰にあてその上から右手でポンポンとたたいてやると石が尿管の狭い所をずり落ちていくので痛みます。また、腰椎圧迫骨折なら骨粗鬆症の疑いがないか、尻餅をついた覚えがないか尋ねます。高齢者や授乳期の女性は思い当たる節がなくても、軽い負荷で圧迫骨折する場合があり注意が必要です。疑わしければ腰椎を上述の要領で叩きます。圧迫骨折なら叩くと痛みますがぎっくり腰は案外痛みません

尿管結石でもない、腰椎圧迫骨折でもない、しかし腰も曲がってないようでしたらぎっくり腰といえども大腰筋以外他の腰の痙攣している筋肉がないか探します。

 
 
 
 
 
 

ぎっくり腰の鍼灸治療

大腰筋の痙攣が原因のギックリ腰になれば腰が曲がったままになるのでうつ伏せになるのがきついので横向きで刺鍼することがよくあります。
大腰筋に刺鍼するのですが横向きになると椎骨が彎曲するので入りやすい下側から刺鍼してその次に入りにくい上側に刺鍼します。
うつ伏せでは反対側の大腰筋に入った鍼を指標にして、もう一方もうてましたが横向きでは腰椎の彎曲を考慮して大腰筋に鍼が入る位置に刺鍼しなければなりません。

 腰が曲がって伸びないぎっくり腰の場合、メインの病巣部は大腰筋ですが、上述の通り他にも前に屈むと痛む場合や、痛みで体が横に傾いてしまう場合もあります。大腰筋のみが痙攣している場合は深層に位置するために腰を押してやっても痛みません。押しても深層まで力が届きませんから。

 腰椎の両脇を押して痛むのは浅層に位置する脊柱起立筋であったり、多裂筋が痙攣している場合です。ぎっくり腰になり腰が曲がったままになると、上体が前に倒れこまないように起立筋や多裂筋が収縮し続けることによってバランスをとりますので、腰が曲がっている時間が長ければ長いほど起立筋や多裂筋が緊張します。またその時に応じて緊張している筋肉があれば中小臀筋等、他の筋肉にも刺鍼します。

 開業してから多くのぎっくり腰の患者さんが来られました。その中でわかったのが、同じぎっくり腰でも症状の度合いは本当にケースバイケースであるということ。度合いはこれまでの腰痛歴や腰の曲がり具合から判断します。というのはぎっくり腰のような急性の疾患でも重症の場合は3寸-5番で大腰筋に刺入してもほとんど響きません。そして当然の如く効果も芳しくない。

そこで10番位の鍼に変えて刺入するとズーンと悪い所に当たっている響きがあり、良い効果が得られ丸まっていた腰がしゃんと伸びるようになっています。まさに『霊枢・九鍼十二原』の「刺之要、気至而有効」(刺鍼のポイントは気が至って有効である」です。

また反対に5番の鍼を4、5本刺しただけで腰がしっかりと伸びることもありました。もう少し刺したかったのですがズキンと得気が強かったので刺すのを止めて早々に置きました。筋肉の緊張や痙攣の度合いそうですが、鍼に対する感受性が強い人は効き易いのでしょうね。

また置鍼時間に関しても当院では通常40分にしていますが、場合によっては延長したり、抜鍼してもまだ痛みがある場合は再度刺鍼して置きます。

 

 
 
 
 
 

ぎっくり腰を治療した後の養生法

鍼をするとほぼ1回でぎっくり腰が治り、前に曲がっていた腰もしゃんと伸びます。しかし安心するのはまだ早く痛みが消失してからもう3回程鍼を受けられるのがいいでしょう

なぜなら1回ではぎっくり腰の状態からは抜けだせますが、そのベースとなっていた慢性腰痛まで完治というわけにはいきません。この慢性腰痛をしっかりと叩いておかないとまた疲れがたまってぎっくり腰となってしまいます。ここがぎっくり腰が癖になるかならないかの分かれ道です。開業当初は痛みが無くなればそれでいいと思っていました。しかし治ったはずの患者さんが数ヶ月後や、ちょうど1年後位に再来院ということがあったのです。恐らくまた繁忙期を迎え疲れがたまってまた痛くなったのでしょう。

最後に治療を受けた後の過ごし方です。安静にしておいたほうがいいのですが、だからといってずっと寝ていればいいのかというとそうでもありません。筋肉は使わないと血流が悪くなり、それが長期間続くと萎縮していまいます。腰のコルセットを長期間装着することを感心しないのも同様の理由です。

よって無理をしない程度で動かしてもらうのが一番良いのです。腰と相談しながら徐々に普段の生活を取り戻していって下さい。ただ鍼をした直後は中腰や重い物の上げ下げのような明らかに腰に負担のかかることは控えます。

また温めるのが良いか冷やすのが良いかと、よく患者さんから聞かれるのですが、どちらかと言うと温めた方がいいのです。なぜなら腰の筋肉が緊張した成れの果てがぎっくり腰です。ぎっくり腰は筋肉の緊張が強まってこむら返りの状態ですから温める事によって血管を拡張させて筋肉組織に酸素を送り込んで痙攣を解きます。

反対に冷やす方がよいと書かれているHPもありますが、病巣部で炎症が起きているからそれを抑える、もしくは冷やして神経を麻痺させようと考え方だと思います。しかし実際は炎症が疑われるような所見もなく、冷やすと血管が収縮してしまうのでよろしくありません。

ぎっくり腰は病巣部が体の深い所にあるために残念ながら温めて劇的な効果が望めませんが浅い部分には少しは熱が届くので、湯冷めに気をつけてゆっくりとフロにつかるなど温めるのがいいと思います。